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「非認知能力」をご存じですか?

(苗場スキースクールSTAFF研修内容の一部)

SAJジュニアプロジェクトチーム:園部 健

 近年、経済学研究で話題になる言葉に「非認知能力」というものがあります。この能力は教育界でも注目され、OECD(経済開発協力機構)では「社会情動的スキル」と称され、「生きる力」「学びに向かう力、人間性等」「社会を生き抜く力」などとして文部科学省でも主体的な学びの土台として位置付けています。

 スキーという、道具もフィールドも日常生活とは違うスポーツの特性を生かすことで、日常生活では獲られない体験を通し、スキーの技術だけでなく、子どもたちの能力も伸ばせられたら将来的に価値のあるものになります。

 

【認知能力と非認知能力】

偏差値や学力テスト、IQテストといった知能検査で測れる能力は「認知能力」と呼ばれます。それに対して測れない能力を「非認知能力」と呼びます。

具体的には、根気よくやり抜くことができる力、人の気持ちを思いやる力、意欲的に取り組む力、そして自信、自立、自制、協調、共感など、私たちの心の中にある力を「非認知能力」と呼びます。

 

認知能力と非認知能力

「認知能力」は数字で表せる「学力の指標」であり「非認知能力」は心の中に存在するもので、数字に表せない「心の能力」です。

学業で必要な「認知能力」を伸ばすのも子供が成長するにつれ「非認知能力」は大きく影響してくるようになります。しかし、「非認知能力」を伸ばすために「認知能力」はあまり有効ではないようです。

 

【スキー指導者と非認知能力】

 やり抜く力、思いやり、意欲などの非認知能力を成長させる要素は、スキーシーンにもたくさん転がっています。

 

スキー場にある非認知能力

例えば、家を出てからスキーを滑って宿に泊まった1日を考えてみます。

「家族と一緒に荷物を運ぶ」=協調

「長い渋滞でもおとなしく我慢」=忍耐

「リフトが混んでいても順番よく並ぶ」=自制

「一人でリフトに乗れた」=自立

「何回か転んでも立って最後まで滑り降りる」=やり抜く力

「ごはん食べたら午後からがんばろう」=意欲

「さっきは三回転んだのに転ばずに滑れた」=自信

「おばあちゃんの荷物を持ってあげる」=思いやり

「兄弟と今日のスキーについて話す」=共感

 

こうした子供のスキー体験に私たちスキー指導者は大きく関わっています。ですが今は「非認知能力」を知識として知っているだけで十分です。特別に何かをする必要はありません。基本的に非認知能力というのは、意図的に働きかけることで身につくというよりは、大人との相互作用や子ども同士の関わり、自発的な遊びの中で育まれるものだと考えられているからです。

 

【非認知能力の体験場面】

指導者として子どもが初めてスキー大会に出場する場面を想定し、「非認知能力」と照らし合わせてみたものです。

【非認知能力の可能性】

「非認知能力」は大人になってこそその能力が発揮されますが、その能力が備わる年齢は主に幼少期から10代と言われています。しかし、大学生を対象とした研究(参考文献①、➁)で、全国的な大会で活躍しているアスリートほどGrit(やり抜く力)を備えていると言う研究結果が出ています。努力をし、困難な壁を乗り越えることで、ある程度の年齢までは能力が備わり、発揮していくことが分かってきております。

「非認知能力」は心の中にあるので、決められた年齢だけが能力を備えて行くとは限らず、アスリート等、強い意欲を持った人間においては「非認知能力」を伸ばすことが可能であると言えます。そして、生涯スポーツとしてのスキーは幅広い年齢で能力を伸ばせる可能性があるのではないでしょうか。

 

【非認知能力の育成】

子供は様々なことに興味を持ち始めると夢を語るようになります。小さい子ほど夢は大きいものです。「非認知能力」は知らないうちに子供の心の中で備わっていきます。その子が成長していく中で、何に興味を持ち、どんな自分になりたいか、もしかしたらオリンピック選手になりたいと思うかもしれません。

子供が心の中で目標になる何かをみつけた時が、能力を伸ばす時でもあります。それは遊びの中からはじまることも多く、例えば、図3のレース場面にあるように、はじめはインスペクションで見たものからの情報を取り込む想像を働かせ、今までトレーニングしてきた自分の力を信じ、いざスタート、様々な状況の変化に立ち向かい、時には失敗、そして立ち直し、最後まで「やり抜く力(Grit)」を出し切りゴール。反省し次なる目標を目指し計画を立てる。その繰り返しによって「非認知能力」を育成していくのです。

 

【スキー指導者としての役割】

子供を指導する際、子供の心のうちを覗くことも必要です。私たちスキーに携わる大人が子供と接することで、日常と違った子供の一面を見ることがあります。その時こそ親だけでは育む事の出来ない「非認知能力」を伸ばすことができるタイミングとなります。そして、子供自身が自ら「非認知能力」を獲得できるように私たちから積極的に寄り添っていくことも時には必要となります。

ここまでのようにスキースポーツを取り巻く環境には、計り知れないほどの「非認知能力」が内在しています。それはインドアスポーツとは違うスノースポーツの特性がもたらすものであります。

生涯スポーツでもあるスキーは年齢を問わず親子3代が同時に楽しめるスポーツであることも「非認知能力」を助長させる要因になると言えます。

私たち指導者は無意識のうちに子供たちにとって重要な役割を果たす存在となっていると言え、「非認知能力」は技術指導同様に知っておくべきものだと思います。

 

参考文献:

①上妻卓実・藤田 勉・蛯原正貴. (2019). 大学生アスリートの競技レベルと非認知能力の関係. 鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要, 28, 115-124

➁松田亮・田村孝洋 スポーツ指導経験が大学生の社会的スキルの向上に及ぼす効果に関する研究-大学運動部活動がもたらす非認知スキルスキルの関与について- 広島経済大学研究論集 40.1.P.33―43 2017

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